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Craftsman’s tools

生地を裁断する包丁

前原光榮商店の傘づくりに欠かせない道具の一つ、「包丁」。
通常、「生地を裁断する」道具といえば、多くの方が連想するものは「布切り鋏(はさみ)」ではないでしょうか。

しかし、前原の傘づくりでは、生地を裁断する道具として昔から「包丁」を用いています。包丁といっても、一般的な食材を切るような包丁ではありません。傘づくりで使用する包丁は、もともと「革切り包丁」と呼ばれる革生地を裁断する特殊な道具です。一見すると、お好み焼きやもんじゃ焼きで使う“へら”のような特徴的な形状をしています。なぜこのような形の道具を使うのでしょうか。それは、1コマの型に合わせて正確かつ効率的に裁断する必要があるからです。

傘の生地は8本骨の場合は8枚、16本骨の場合は16枚の“コマ生地”が必要です。生地にそれぞれの仕様の型を合わせて、包丁を縦に持ってカッターのように滑らせる。これが傘生地の裁断方法です。コマ生地は、少しでもズレが生じるとシワが寄ったり張りが悪くなったりするため、生地の裁断は傘職人にとって最も神経を使う作業の一つ。前原光榮商店では、裁断する生地を重ねるのは4枚重ねまで。それ以上は誤差が出やすいので重ねてはならない約束となっています。昔の傘職人たちは、誤差なく型どおり綺麗に効率的に裁断できる道具としてこの革きり包丁を採用したのでしょう。

弊社の職人は一人ひとり愛用の包丁を持っています。料理用の包丁と同様、使えば切れ味が悪くなってくるため、研ぐ必要があります。職人たちは生地一反から16本骨傘のコマを約800枚裁断したら研ぐ、というペースで使い込んでいます。こちらも愛用の砥石を持って水場に行き、黙々と研ぐ作業も工程の一つのようです。生地の切れ味が悪いと裁断面がガタガタになってしまい、傘の見栄え自体も悪くなってしまうため、切れ味が悪くならないうちに研ぐタイミングを見計らって集中して作業をしています。もちろん、生地を裁てば裁つほどたくさん研がなければならないので、だんだん刃が短くなってきます。一本につき寿命はおよそ2年。面白いのは、生地を裁つときの力の入れ方や刃を研ぐ癖が職人一人一人違うため、刃の減り方がそれぞれ異なるという点。道具自体にも愛着を持ちながら大切に使っています。

次回は縫製に欠かせない「ミシン」をご紹介したいと思います。