日傘を開いた瞬間、思わず「きれい」と声がこぼれる-
そんな佇まいを持つ日傘に使われているのが、「かわず張り」という伝統的な技法です。
見た目の美しさだけでなく、歴史や手間、技術、そして機能性までも備えたこの仕立てについて、ご紹介します。

かわず張りとは、2枚の生地が傘骨を挟むように張り合わせる、非常に手間のかかる仕立てのことです。単に生地を2重にした「二重張り」とは異なり、骨が完全に内側に隠れる構造になっているのが大きな特徴です。
その名の由来は、カエルの水かきに似ていることから。
正式には「かわず張り」と呼ばれますが、関東の一部では「かえる張り」と呼ばれることもあるそうです。
その発祥は、フランスと言われています。
パラソル文化とともに貴族たちに愛されてきた仕立てで、日本では昭和の戦後期以降に職人の手によって受け継がれてきました。
•表面

•裏面

かわず張りの最大の特徴は、圧倒的な手間と難易度の高さにあります。
まず難しいのが「裁断」です。
傘の生地は一見すべて三角形に見えますが、実際には骨の素材や形状によって、微妙に膨らみや高さを変えなければなりません。
外側と内側では、同じ型紙が使えるわけではなく、必ず試し張りを繰り返しながら微調整を行います。
特に難しいのが、綿やポリエステルなどの伸びない生地同士を合わせる場合。
レースのように伸縮性のある素材は比較的調整しやすい一方、同じ生地を2枚使う「共生地」は、熟練の職人でも細やかな感覚が問われます。
縫製もほとんどが手作業で行われています。
中縫い・中閉じと呼ばれる工程はすべて手で行われ、生産効率は通常の傘の2.5~3倍にもなります。
かわず張りの魅力は、なんといっても見た目の美しさにあります。
傘骨をあえて見せないことで、奥ゆかしく、上品な印象を生み出します。
開いた瞬間に「わあ」と声が上がるのは、この仕立てならではです。
さらに、様式美だけでなく機能面でも優れています。
2枚の生地の間にできる空気層が、断熱材のような役割を果たし、一般的な1枚仕立ての日傘よりも、暑さをやわらげ、UVカット率も高まります。
「機能性とおしゃれを両立した日傘」として、確かな違いを感じられる仕立てです。
そして何より、現在この技法を日本で作れる職人はごくわずかになっています。
手間がかかり難易度も高いゆえに、作り手は年々減少しており希少性の高い商品となっています。

前原光榮商店のかわず張りは、技法そのものの美しさに加えて、素材選びから仕立てまで、日本のものづくりの粋を集めた一本であることに大きな特徴があります。
外側に用いるレースには、厳選された高級レースを採用。
内側の張り具合や陰影の美しさなど、計算されつくした確かな仕立てによって、かわず張り本来の奥ゆかしさが引き立ちます。前原光榮商店では、高度な技術を要するかわず張りに適した均一性の高い織りのレースを厳選しています。
また、そのレースをかわず張りとして成立させるのは、限られた日本の職人の手仕事です。
裁断、調整、手縫いによる中閉じ——
どれか一つが欠けても、この仕立ては成立しません。
素材の良さと技術の高さ、その両方が揃ってはじめて完成する日傘です。
国産レースを用い、日本の職人が仕立てる。効率や量産とは対極にあるこの選択は、決して偶然ではありません。前原光榮商店が長年培ってきた、「良いものを、正しい手間でつくる」という姿勢そのものが、このかわず張りに表れています。

かわず張りは、見た目の美しさだけを追求した技法ではありません。
高度な技術、膨大な手間、そして日差しを和らげる機能性まで備えた、日傘づくりの到達点ともいえる仕立てです。
今、この技法を継承できる職人がいること。
そして、その仕事を次の世代につないでいこうとする意思があること。
かわず張りの日傘には、そうした背景ごと大切に使いたくなる理由があります。