前原光榮商店の傘づくりはたくさんの細かなパーツの繊細な組み合わせによって成り立っています。
傘が美しく開く、その仕上がりの裏には、目には見えにくい工程があります。
そのひとつが「アイロンによる仕上げ」です。
縫製を終えた生地には、わずかながらしわが残っています。
そのしわを丁寧に整え、商品として美しい状態へと仕上げていく。
今回は、傘づくりを支える“アイロンの仕事”をご紹介します。

傘の生地は、裁断・縫製を経る中で、どうしてもしわが生じてしまいます。
そのままでは、本来の美しい張りやシルエットが損なわれてしまうため、仕上げとしてアイロンを当てる工程が欠かせません。
職人は、傘の一コマ一コマに丁寧にアイロンを当て、しわを伸ばしながら、生地の表情を整えていきます。
単にしわを消すだけでなく、傘を開いたときの“美しい広がり”をつくる重要な工程です。

現在は、家庭用のアイロンに近い道具を使用しながら、効率よく仕上げを行っています。
しかし、工房には創業当初から使われてきた、80年以上前のアイロンも残されています。当時のアイロンは、現代のものとは仕組みが大きく異なります。
本体に水を入れ、下部で火を焚いて加熱。温められた水が蒸気となり、上部の穴から立ち上る構造です。
そして使い方も特徴的で、 アイロンを動かすのではなく、傘の生地をアイロンに当てて動かすことで、しわを伸ばしていました。
道具そのものだけでなく、使い方にも時代ごとの工夫が込められています。


アイロンの工程は、見た目以上に繊細な作業です。
温度が高すぎたり、同じ場所に長く当ててしまうと、生地にアイロン跡が残ってしまうこともあります。そのため職人は、素材や状態を見極めながら、力加減や当て方を細かく調整し、一本一本、丁寧に仕上げていきます。
このひと手間があるからこそ、傘は美しく、気持ちよく使える状態でお客様のもとへ届きます。


傘の美しさは、完成した瞬間だけで生まれるものではありません。仕立ての最後に施される、こうした丁寧な工程によって支えられています。
アイロンは、ただの道具ではなく、傘に“整った表情”を与えるための大切な存在です。見えない部分にこそ宿る、職人の手仕事。その積み重ねが、一本の傘の品質をつくり上げています。