前原光榮商店の傘の魅力のひとつが、豊富な手元のバリエーションです。
もみじや楓、寒竹、本革など、さまざまな素材の中からお好みの手元を選べるため、自分だけの一本を仕立てる楽しみがあります。
しかし、手元はただ差し込めば完成するわけではありません。
実は傘づくりの最後には、「手元付け」と呼ばれる大切な工程があります。今回は、お客様が選ばれた手元が一本の傘として完成するまでの仕事をご紹介します。

傘の骨組みや生地が完成したあと、最後に行うのが「手元付け」です。手元は天然木を使用しているため、一つひとつ微妙に個体差があります。
また、傘の中棒も種類によって太さが異なるため、すべてが同じ規格というわけではありません。そのため職人は、一本ごとに状態を確認しながら手作業で取り付けを行っています。
最初に行うのは、手元の穴と中棒の相性を確認する作業です。実際に中棒へ手元を差し込み、穴の大きさが適切かどうかを見極めます。ぴったりとはまることもありますが、天然木である以上、わずかな個体差は避けられません。
この確認作業が、仕上がりの美しさと使い心地を左右します。

穴が小さい場合は、ドリルを使って穴のサイズを合わせていきます。削りすぎると元には戻せないため、慎重に調整を重ねながら作業を進めます。ほんのわずかな差ですが、このひと手間によって中棒と手元が美しく収まり、ぐらつきのない仕上がりになります。

サイズが整ったら、次は接着工程です。前原光榮商店では、2種類の接着剤を混ぜ合わせて使用しています。それぞれの特性を活かしながら、中棒と手元をしっかりと固定していきます。
また、接着剤は塗布した直後に完全に固まるわけではありません。
しっかりと固定するためには一定の乾燥時間が必要となるため、手元付けを行った当日は、たとえその日が雨の日であっても購入した傘をさして帰ることは推奨しておりません。十分に接着剤が固まる前に使用してしまうと、仕上がりや耐久性に影響を与える可能性があるためです。
大切な一本を長く安心してお使いいただくため、職人は完成を急がず、接着剤がしっかり定着する時間も含めて傘づくりの工程と考えています。
普段は見えない部分ですが、長く安心して使っていただくための重要な工程です。

接着剤だけでなく、糸を巻き付ける工程も行います。糸を巻くことで隙間を埋めるだけでなく、かます役割を果たし、手元が抜けにくくなります。
見た目には分からない部分ですが、長年使い続けても安心してお使いいただけるよう工夫された職人の知恵です。

さらに、手元とはじきの位置、ネーム紐の位置がすべて使いやすくまとまるように位置を調整していきます。

こうして手元が取り付けられることで、一本の傘が完成します。お客様が選ばれた手元と、生地や骨組みがひとつになり、ようやく世界に一本だけの傘として仕上がります。
何気なく握る手元にも、多くの手仕事と工夫が詰まっているのです。
前原光榮商店では、傘づくりの最後に職人が一本ずつ手元を取り付けています。天然木ならではの個体差を見極めながら穴を調整し、接着し、糸を巻いて強度を高める。そうした丁寧な手仕事によって、お客様の手に馴染む一本が完成します。
傘を手に取る際には、ぜひその手元にも目を向けてみてください。
職人たちの細やかな仕事が、そこに息づいています。
