一本の傘は、何枚もの布を縫い合わせることで生まれます。
その最初の工程で欠かせないのが、「木型(きがた)」です。
一見するとシンプルな木の板ですが、傘の形や美しさを左右する大切な道具であり、職人それぞれが自分専用の木型を使っています。
今回は、洋傘づくりを支え続けてきた「木型」の役割と、その奥深い世界をご紹介します。

洋傘づくりでは、生地を骨の形に合わせた三角形に裁断していきます。
この一枚一枚の布を「小間(こま)」と呼び、その形を正確につくるために使われるのが木型です。現在でも、洋傘が日本でつくられ始めた頃から続く方法で、一枚ずつ丁寧に裁断されています。
わずかな形の違いでも、縫い上がったときのシルエットや開いた際の美しさに影響するため、木型は傘づくりに欠かせない存在です。
実は木型は、工房で共通して使う道具ではありません。
職人ごとに布へ力を加える癖や、裁断するときの角度、刃物の動かし方には微妙な違いがあります。そのため、自分の作業に合わせて木型をつくり、長年使い続けます。
職人の方に伺うと、「他の職人の木型ではうまく切れない」というほど。同じ傘をつくる工房であっても、持ち手や作り方に個性が出る。
それぞれの木型には職人の経験や感覚が刻み込まれています。

木型は、木を切って終わりではありません。
実際に裁断を繰り返しながら、わずかな寸法や角度を何度も調整していきます。納得できる木型になるまでには、3日もの時間がかかることも。試作品をつくり、修正し、また試す——。
裏面には滑らないような工夫が施されていたり、手になじむ持ちやすい工夫や、包丁で切断するときに型が当たらないかなどを考えて整えていく。


その繰り返しによって、ようやく一本の木型が完成します。
長年使い続けられた木型には傷やメモ、数々の創意工夫が残り、それぞれが職人のこだわりや歩みを物語っています。

かつて木型には、「朴(ほお)の木」がよく使われていました。適度な硬さがありながら加工しやすく、反りも少ないことから、昔の職人たちにとって扱いやすい素材だったためです。
現在では、職人それぞれが使いやすい木材を選び、木型を製作しています。
また、傘はサイズや骨の本数によって小間の形が変わるため、木型には長さや仕様などが細かく書き込まれています。長年使い込まれた木型に残る文字や傷跡も、職人にとっては大切な記録のひとつなのです。

傘づくりに欠かせない木型は、単なる「型」ではありません。
そこには職人一人ひとりの技術や感覚、そして長年積み重ねてきた経験が詰まっています。一枚の布を美しく裁ち、一つひとつの小間を正確につくることが、一本の美しい傘へとつながります。
普段は見る機会の少ない木型ですが、その一枚の木板には、職人たちのものづくりへのこだわりが静かに刻まれています。
