前原光榮商店の傘づくりに欠かせない道具の一つが「ミシン」。
このミシン、実はすでに国内メーカーの製造はすべて終わってしまっている貴重なものなのです。今回は、その貴重なミシンの役割や特徴についてご紹介します。
前原で使う小さなミシン―。
これらは50〜60年前から使われている、傘づくりの大先輩です。もともとは麦わら帽子などをつくるために使われていたブレードミシンを改良したものといわれていますが、その特徴は大きく2つあります。
1つ目は、一般的なミシンで使われる“下糸”を使わずに1本の糸のみでステッチを行う「単環縫い」という形式です。この縫い目は上糸(針糸)1本だけで作られ、生地の表面の縫い目は本縫いと同じように見えますが、裏面は針糸のループが互いに連続して鎖目となって続いているため、伸縮性に富み丈夫なのが特徴です。
傘は開いたり閉じたりと、テンションがかかるため、昔から本縫いではなく単環縫いが採用されています。
2つ目は、ミシンの押さえ金が横に開くということ。
傘をつくるためには包丁で二等辺三角形の“コマ生地”を裁断した後、「中縫い」という作業を行います。16本骨傘の場合、16枚のコマ生地をつなぎ合わせて円形状にしていきますが、このときに大切なのは針を落とす位置です。
枚数が増えるにしたがって縫うのが難しくなる一方、少しでもずれてしまうと仕上がりに影響が出てしまうため、数ミリ単位での調整を行い正確な位置に針を落とさなければなりません。そのため、押さえ金が横に開くことで、針を落とす位置が見やすくなり一定になりきれいな仕上がりに寄与してくれます。
これらのミシンは、日本での洋傘づくりが始まった頃から脈々と使い継がれてきました。しかし、現在ではすべてのメーカーでの製造が終わってしまったため非常に貴重な品になっています。そのため、手入れやメンテナンスも自分たちで行い、少しでも長く大切なパートナーとして一緒に傘づくりができるよう努めています。
次回は縫製をするために使われる「糸」についてご紹介したいと思います。