わたしたちは「傘」という字に含まれる4つの「人」は、
1. 生地を織る
2. 骨を組む
3. 手元を作る
4. 生地を裁断縫製する
それぞれ4つの分野の職人たちを表していると考えています。前原光榮商店はこの4つの技術を高め、継承してきました。

前原光榮商店の傘が多くの人に愛され続ける背景には、職人たちの技と心があります。今回は「傘の布を裁断・縫製する」という工程にフォーカスして、職人の一人である小俣さまにインタビューをさせていただきました。私たちが普段、何気なく使っている傘の成り立ちを、ぜひご覧ください。
職人 小俣 亀一さま

— はじめに、小俣さまのこれまでのご経歴についてお伺いさせてください。
私が傘作りを始めたのは15歳のときでした。叔母の家で仕事を見て、「これだ」と感じたんです。それから、親方のもとで修行を始めましたが、最初は間違えたり怒られたりの日々でしたね。
朝6時に起きて掃除をしてご飯を食べて、その後8時くらいだったかな、ようやく仕事に取り掛かるんですよ。当時は厳しい環境で、人がすぐに抜けてしまうことも多かったですが、私はもう少し頑張ってみようと思って喰らいついていました。修行を始めて5年が経った頃、ようやくミシンに上がらせてもらえたんです。当時は、ミシンに上がれるのは親方に認められた人だけだったから本当に嬉しくてね。「おい、この一反潰してみろ」って言われたので一生懸命取り組んできちっと全部上げたら、親方が涙を流して喜んでくれたんです。いま思い出しても涙が出てきますよ。
厳しく怒るだけじゃなく、良い仕事をしたときには必ず褒めてくれる、その言葉が嬉しくて「もっと頑張ろう」と思っていたら、気が付くと20年も修行をしていました。長かったようで思い返してみるとあっという間でしたね。この仕事が本当に好きで、苦ではありませんでした。むしろ、「3度の飯よりも、旅行に行くよりも仕事が好き」と思えるほどで、今でも朝の6時から仕事をしています。そんな気持ちが、60年以上も続けてこられた理由だと思います。
その後、独立して傘で使う布の裁断と縫製を中心に仕事を続け、傘作りを通して多くの喜びとやりがいを感じてきました。

— 前原光榮商店との協業のきっかけについて聞かせてください。
前原光榮商店との仕事が始まったのは、私が独立してしばらく経った30年ほど前からだったかな。当時から「良い商品を作り続ける」という想いが共通していて、その信頼関係が今も続いています。
仕事は楽なことばかりではありません。それでも、注文通りに仕上げた商品が評価されるときは、何よりも嬉しい瞬間です。前原光榮商店ようなこだわりのあるメーカーと一緒に仕事ができることは、職人冥利に尽きます。
— 実際にその1本の傘ができるまでには、どういった工程があるのでしょうか?
私の仕事は、裁断用の包丁を研いでおくことから始まります。そして、裁断を行っていきますが、大事なのは指先で布地を触って開いた瞬間に、その特性を見極めること。地曲がりはしていないかなど、同じ種類の布でも空気にあたると生地は固くなっていくし、空気に当たらない新しい布だと生地がやわらかいから伸びる。だから、毎日その日に扱う布の状態を指先の感覚を信じて感じ取りながら、自分で調整して型に合わせて裁断していきます。

この歳になるとこの感覚を間違えることもあるんです。だから、必ず裁断を行う前には、1本どんな生地でも試してから仕事をする。そして、1日にやる数も最初に設定した以上の数はやらない。それ以上多くやったり少なくしたりということではなく、決まった数をきちんとあげる。それが、ずっと親方に仕込まれてきたやり方だからね。

裁断した後は縫製に移ります。傘の三角形の生地を正確に縫い合わせていくのですが、ここでも集中力が欠かせません。人には見えませんが僕には長年使い続けてきたミシンに印が見えるんですよ。その印に合わせて、生地を縫っていく、ちょっとでもズレれば全体のバランスが崩れてしまうので、ミシンに上がったら他のことはもう耳に入らない。手元に全部集中するんです。昔は3時間くらいできたけど、いまは2時間だね。それ以上やると疲れちゃう。でも、その2時間は女房が傍で何を言っても全部入ってない。そのくらい集中しちゃうんです。

— 昔の作り方と今の作り方の違いはどんなことがありますか?
昔の人は、結局数を多く上げることが大事でしたから職人たちもそこが大切でしたが、今は良い商品を作らないと売れない。もちろん、時代によって変化はあるけども、そのたびに目の前の仕事に向き合って対応してきたから違いって言われると分からないね。
傘の細かなパーツを縫うのは下職さんたちにお願いしているけど上手にやっている人にしか信頼して仕事は頼めなくなる。今も一緒にやっている人たちはもう何十年も一緒にやってる人だから、安心して任せられますね。自分でも直したり調整はするけども、そうやって自分の目で見て触っていいと思ったモノを納めています。

— 60年以上にわたって仕事を続けてきた中でのこだわりはありますか?
こだわりというよりは、なんでしょうね…。私は、ただ「いい商品」だけを作っていきたいと思っているんです。毎日、何十本と傘を作り続けてきていますが、お客様はその中の1本を使い続けてくださる。だからこそ、注意されたり、お客さんががっかりしないようなモノを作っていきたい。シンプルだけど、それが私がお仕事を続けていくうえでの信念なんです。ただそれだけなんです。 職人によってこだわりや、ポイントっていうのはそれぞれにあるんだろうけど、私の場合はその信念がこだわりにもしたものなんでしょうね。
