前原光榮商店の傘づくりに欠かせない道具の一つが裁断した生地を縫製するために使用する「糸」。細かなパーツを一つひとつ縫い合わせて制作している前原の傘は、3種類の糸を使い分けて作られています。そんな3種の糸の役割と使われ方についてご紹介します。

一本の傘が、雨の日にそっと寄り添い、風の日にしなやかに耐える。その陰には、目立たないけれど、大切な役割を果たしている「糸」の存在があります。傘は、さまざまなパーツが組み合わさってできていますが、それぞれの部分に適した3種の糸を使い分け、丁寧に縫い上げることで、美しく丈夫な一本が仕上がります
やさしく支える「ミシン糸」
最も一般的な糸である「ミシン糸」は、ネーム紐や傘袋など細かな縫製が必要となる部分に使われています。

たとえば、持ち運びに便利な傘袋の縫製には、しなやかで扱いやすいこの糸を下糸と縫い合わせます。見えない部分でも、傘を使う人の手に優しくなじむように――そんな思いで選ばれています。

水を弾く「撥水糸」
雨の日に欠かせない傘だからこそ、縫い目から水が染み込んでこないようにする工夫が必要です。さらに傘は開く際にテンションがかかるため柔軟さも求められます。

傘の布を縫い合わせる「中縫い」には、特別な撥水加工が施された糸を使います。この糸は、細かい針目の間から水が入り込むのを防ぎ、傘の内側をしっかりと守ってくれるのです。雨のしずくを表面ではじきながら、快適な時間を提供してくれる頼もしい存在です。

しっかりと結びつける「蠟引き糸」
傘の骨と布をつなぐ「中綴じ」や、露先を固定する部分には、ワックス処理された「蠟引き糸」が使われます。

この糸は、手縫いで一か所ずつ縫い込むことで密着し、強度を増していく特徴があります。まるでしっかりと結ばれた絆のように、長い時間が経っても緩むことなく、傘を支え続けます。
