前原光榮商店の傘づくりはたくさんの細かなパーツの繊細な組み合わせによって成り立っています。その一つが、傘の最上部、陣笠と生地の間にひっそりと挟まれている布製の「菊座」です。
見逃されがちな小さな存在ながら、実は傘の耐水性と美しさを陰から支えるのに欠かせないパーツなのです。今回は、そんな菊座の名前の由来や小さいながら持つ、大きな役割について覗いてみましょう。

菊座という名の由来は、読んで字のごとく形状がまるで菊の花のように見えることからつけられています。中心から放射状に広がる縫い目が、花びらのように整然と並ぶ様子は、まさに和の美を感じさせます。
菊座の一番重要な役割は「雨水の侵入防止」。傘布と骨のわずかな隙間をふさぐことで、雨が内側に染み込むのを食い止める重要な防御線となります。
さらに「美観の向上」してくれます。頂点に添えられた菊座は、傘のアクセントとなり、全体の印象をぐっと引き締めてくれます。

前原光榮商店では、この菊座は既製品を貼るのではなく、傘ごとに異なる生地や骨組みに合わせて、職人が一つひとつ手縫いで仕立てています。生地の厚みや色、柄との調和を見ながら、わずか数センチの円形に魂を込める作業は、まさに緻密な工芸です。
傘布と同じ生地を使います。

一つひとつ、手縫いで細やかに縫いあげていきます。

外から見ればほんの小さな飾りに見えるかもしれません。けれども、その小さな布に施された細やかな手仕事こそが、傘全体の完成度を大きく左右します。雨から身を守るという実用性と、持ち主の心を満たす美しさ──その両立を目指す中で、菊座はまさに「陰の立役者」と言える存在なのです。
一見すると見えづらいパーツが、長く使いたいと思える一本をそっと支えてくれていると知ったとき、その傘はきっと、もっと愛おしく感じられるはずです。
