一本の傘をつくるためには、職人の手と、長年寄り添う道具たちの存在があります。今回は、傘づくりを支える重要な道具のひとつ「ドリル」をご紹介します。

手元と中棒がしっかりと噛み合い、軽やかに開閉できる―
その精密な“はまり”を実現するために欠かせないのが、ドリルという道具です。木製の手元と中棒をつなぐための大切な工程であり、まさに傘が一本の形になる瞬間でもあります。木の手元は、素材によって硬さや密度、表面の質感がそれぞれ異なります。籐や楓、寒竹など木目の違いによっても削り心地が変わるため、同じ木材の手元でも、仕上がりは一本一本異なります。
そのため、傘骨にしっかりと合うよう、ドリルで開ける穴のサイズを微妙に調整しながら加工を行います。婦人傘や紳士傘、傘骨の種類によって規格は異なり、職人はその個性の違いを感じ取りながら、ひとつひとつ丁寧に仕上げていきます。

ドリルの刃が木に触れたときのわずかな抵抗や音。
その“手応え”を頼りに、職人は傘骨がまっすぐに収まる角度を見極めていきます。ほんのわずかな傾きでも、仕上がりに差が出るため、一瞬たりとも気を抜けない繊細な作業です。

やがて手元と中棒がぴたりと合わさる瞬間、一本の傘としての「命」が吹き込まれます。
それぞれ異なる職人が手がけたパーツが、このドリルの工程を経て初めてひとつになるのです。だからこそ、この道具は“傘づくりをつなぐ存在”ともいえるでしょう。

前原光榮商店の作業場に50年近く鎮座するこのドリルは、長きに渡り活躍し続け、ていねいにメンテナンスしながら毎日大切に使用されています。見た目は少し古びていても、長年の経験を重ねた職人が手を添えると、今も正確に、そして静かに回り続けます。機械ではなく、人の手で調整し、人の感覚で仕上げる―― そんな手仕事の積み重ねが、一本一本の傘の確かな品質を支えています。
傘の骨組みを支え、布を張り、手元に魂を宿す。
そのすべての工程に、道具と職人の信頼関係があります。ドリルは、見えない場所で傘づくりを支える静かな相棒。お客様の手に届く一本の傘にも、そんな職人と道具の物語が息づいています。
