前原の高級傘は何年使える?
長年ご使用いただいた傘から考察する
「永く使える傘」とは
「良い傘は、何年くらい使えるのでしょうか?」
店頭で傘をお選びいただく際や、修理のご相談をいただく際に、このようなご質問をいただくことがあります。
5年、10年、あるいは20年。
ある程度はっきりと明確にお答えできればよいのですが、傘には「何年使える」と決まった寿命があるわけではありません。使用頻度や使い方、また保管環境などによっても大きく左右されるのです。
前原光榮商店の直営店・浅草三筋町店や修理部門カサラボには、長年にわたりご愛用いただいた傘が、修理のために日々送られてきたり、持ち込まれたりします。中には20年、30年近くにわたってお使いいただくものもあり、スタッフ自身も初めて見るデザインだったりすることも。
このように長年使われている傘は、どのようにして年月を重ねているのでしょうか。
日々さまざまな傘を修理している傘メーカーの立場から、「傘の寿命」と「修理しながら永く使う」というポイントをご紹介いたします。
Vol.01傘の寿命は「〇年」とは決められない
傘を購入してから一体どのくらいの期間使うことができるのかは、単純に年数だけで判断することはできません。
たとえば、毎日のように日傘としても雨傘としても使う傘と、雨の日の外出時だけに使う傘とでは、同じ5年間でも使用回数が大きく異なります。
- 雨に濡れた後、しっかりと乾燥させているか
- 強い風の中で使用することが多いか
- 保管場所の湿度や温度
- 傘の開閉頻度
- 生地や骨、持ち手に使われている素材
こうした条件によっても、傘の状態は変わります。
そのため私たちは「この傘は10年使えます」「20年持ちます」などといった年数のお約束はしていません。
ただ実際に一本の傘を10年、20年とご愛用してくださるお客様がいらっしゃることも事実です。
必ずしもすべてが寿命を迎えるわけではありません。
Vol.02傘はいくつもの部品からできている
一本の傘は、生地、骨、中棒、ロクロ、ハジキ、露先、陣傘、手元など、さまざまな部品から作られています。
そして、それぞれの部品が同じタイミングで傷んでいくわけではありません。長年使っているうちに、骨が一本曲がってしまうこともあれば、木製の中棒が歪んでしまうこともあります。
生地はまだ十分に使えるけれど、手元が劣化してしまった、という場合もあります。また骨組みはしっかりしているけれど、生地が傷んでしまうというケースもあります。
いずれの場合も、傷んだ部分を修理・交換することによって、傘全体を買い替えることなく再びお使いいただける場合があります。
自動車や腕時計などと同じように、傘も状態を見ながら必要な部分に手を入れることで、永く使える道具なのです。
Vol.0310年、20年使われる傘は
一度も壊れていないわけではない
長く使われる傘、というと「20年間、一度も壊れなかった丈夫な傘」を想像される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私たちが修理で拝見する長年ご愛用の傘は、必ずしもそうではありません。
骨を交換したり、生地を張り替えたり。長い年月の中で、必要な修理を少しずつ施しながら年月を重ねた傘が多くあります。
前原光榮商店のお客様で特に多いのが、新しい生地に張り替えて引き続き使い続けるというご依頼です。
それでも「同じ傘を使い続けている」と感じられるのは、長年手に馴染んだ手元や、その傘を選んだ時の記憶、大切な方との思い出など、単なる部品の集合としてだけではない「思い入れ」が一本の傘に残っているからかもしれません。
必要な時に手を加えながら、使い続けることのできる傘。
Vol.04生地にも寿命がある
傘のパーツの中で、一番風雨にさらされる「生地」。長年の使用であれば、なおのこと劣化が進みやすいパーツです。
雨傘であれば撥水性の低下、日傘であれば紫外線や摩擦などによる生地の劣化も生じます。
雨は空気中の埃や塵を含んでいるため、想像以上に汚れています。そのため一見きれいに見えても、意外と生地が汚れていたり、弱くなっている場合もあります。
そのような場合は、骨だけを修理するのではなく、生地の張り替えをご提案することもあります。
同じ生地でも、色違いでも、まったくデザインの異なる生地に張り替えるのも楽しみのひとつ。骨組みや手元を活かしながら、再び新しい傘としてお使いいただくことができます。
Vol.05どこまで修理できる?
さまざまな不具合や劣化に対して、前原光榮商店では傘を実際に拝見したうえで、可能な範囲で修理をご案内しています。
一か所を修理すれば再び問題なくご使用いただけるようになることもあれば、複合的な傷みが生じている場合もあります。
そのため、修理のご相談をいただいた際には、ご依頼いただいた箇所だけでなく、傘全体の状態を確認することを大切にしています。
Vol.06修理できないこともある
一方で、すべての傘をいつまでも修理し続けることができない場合もあります。
長い年月が経過すると、製造当時に使用していたパーツや生地が廃番となり、在庫も残っていないことがあるからです。
また複合的な傷みの場合は、修理をしても安全にお使いいただくことが難しいと判断することもあります。
傘を永く使う上では、「修理できること」と同じくらい、現在の状態をきちんと見極めることも重要なポイントです。
私たちは、修理することそのものを目的とするのではなく、その後も安心してお使いいただけるかという視点から、修理方法をご案内しています。
Vol.07永く使うために、普段からできること
修理できる傘であっても、日頃のお手入れによって状態には大きな差が生まれます。
濡れたまま長時間閉じておくと、傘の内部に湿気が溜まり、生地だけでなく骨や中棒、金属部分にも負担がかかり、劣化が早まってしまいます。
また一本の骨の曲がりや部品の緩みでも、そのまま使用することで別の部分に負担がかかり、修理箇所が増えてしまう場合があります。
小さな不具合のうちに状態を確認しておくことも、傘を永く使うためのひとつの方法です。
Vol.08永く使うほど、その人の傘になっていく
新品の傘には、新品ならではの美しさがあります。
一方で、長年使われた傘にも、新品とは違った魅力があります。特に天然木の手元は使う方の手に馴染み、少しずつ風合いが変わっていきます。
修理のために届いた傘を拝見すると、とても大切に扱われてきたことが伝わってくるものが少なくありません。
「記念に購入した傘なので、これからも使い続けたい」
そのようなお話とともに修理をお預かりすることもあります。
傘は雨の日に使う日用品ではありますが、永く使うことで単なる日用品ではなく、その方だけの大切な一本になっていくことを、私たちは日々実感しています。
「何年使えるか」より
「何年使いたいと思えるか」
傘は何年使えるのか。
その問いに、私たちは「〇年です」とお答えすることはできません。
10年使われる傘もあれば、20年以上大切にされる傘もあります。
そして、それは単に丈夫な素材を使っているからだけではありません。
丁寧に使う。
傷んだところに手を入れる。
必要であれば部品を交換する。
そして、その傘をこれからも使いたいと思っていただけること。
そうした積み重ねが、一本の傘を永く使うことにつながります。
新しいものを簡単に買い替えることができ、それが当たり前となった時代だからこそ、ひとつのものを修理しながら使い続ける。
前原光榮商店は、傘をつくることだけでなく、お客様が大切な一本を永く使い続けるためのお手伝いも、傘メーカーの仕事のひとつだと考えています。